ヘルペスウイルス感染症
はじめに
性器の単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV) 1型(HSV-1) または2型(HSV-2)の感染によって発症する性器ヘルペスは、代表的なウイルス性性感染症です。
性感染症の中で女性では性器クラミジア感染症に次いで第2位に位置します。
HSVは感染後知覚神経節に潜伏感染し、時々再活性化されて再び皮膚・粘膜の表面に現れ再発するとともに感染源となります。潜伏しているHSVを排除できる薬剤はありません。
制御がむずかしい性感染症です。
臨床症状
① 初感染初発
HSVに初めて感染して発症する場合です。感染の機会があってから平均3~5日(2~21日)の潜伏期の後に発症することが多いです。発症前に外陰部の瘙痒感などの症状を呈することがあります。比較的突然に外陰部に浅い潰痬や水疱が出現します。病変の数は数個から無数のものまであります。一般的にはまず水疱ができ、これが破れて潰瘍またはびらんになりますが、粘膜面は最初から潰瘍またはびらんになることが多いです。外陰部の疼痛は排尿や椅子に腰かけることもできないほど強く、ときに歩行も困難となります。両側の鼠径部のリンパ節の腫脹圧痛はほぼ必発です。約6~7割に発熱、全身倦怠感などの全身症状を伴います。女性では約3割に、男性では約1割に無菌性髄膜炎を併発するとされています。これらの例では、髄膜刺激症状のため頭痛や項部硬直、ときに羞明感を訴えます。また、Elsberg症候群として知られている仙骨神経根神経障害を併発し、排尿排便困難となり、ときに尿閉に至ることもあります。
髄膜刺激症状やElsberg症候群はHSV-2感染例がHSV-1感染例よりも明らかに多く、HSV-2の好神経性がうかがわれます。
抗ヘルペスウイルス薬を投与すると約1週間でかなり軽快します。
② 非初感染初発
すでに無症候のうちに知覚神経節に感染していたHSVが再活性化され発症したものです。したがって、発症時にHSV lgG抗体は陽性です。症状は前述の初感染と同様ですが、より軽く病変の数もより少なく、鼠径リンパ節の腫脹の頻度も少なくありません。発熱などの全身所見はみられず、治癒までの期間も短く、全体としてより軽症であることが多いです。
③ 再発
以前に発症したことのある患者が再び発症した場合を再発としている。知覚神経節に潜伏感染しているHSVの再活性化によって発症します。大体同じ部位に再発することが多いですが、ときに別の部位に再発することもあります。病変は小水疱や潰瘍性病変が1~数個出現します。発熱することもなく鼠径リンパ節が腫脹することは少ないです。多くは1週間以内に自然治癒します。再発する前に大腿語後面に神経痛様の疼痛があったり、再発する局所に違和感を感じるなどの前兆が約30~50%の患者にみられます。再発の頻度はHSV-2感染例のほうがHSV-1感染例よりもはるかに多いです。
HSV-2感染例は1年以内に約90%が再発します。
文献的にはHSV-2発感染例の再発頻度について、38%は年間6回以上で20%は10回以上再発するといわれます。
再発の契機となるのは、心身の疲労、風邪などの発熱、女性では月経などが多く、これらが全身や局所の免疫能の低下をもたらすからではないかと思われます。
外陰部には病変がみられず子宮頸部にのみ病変がみられることがあります。性器には何の病変もなく尿道炎症状を呈することがあります。神経症状のみを呈するMollaret髄膜炎のような場合もあります。再発の前兆としての大腿後面の神経痛様の疼痛がとくにつらいという患者もいます。
何ら症状を呈しないでHSVを性器に排泄している無症候性ウイルス排泄者も多いです。性器ヘルペス患者の性的パートナーの約70%は無症候であるといわれています。
性器以外に、指、乳房、臀部、肛門などにも感染が成立し、症状を呈します。
性器ヘルペスの感染病理
性器の微小な傷から侵入したHSVは、局所で増殖した後、知覚神経末端に入り、ここから知覚神経を上行して後根神経節である仙髄神経節に至ります。ここでさらに増殖する一方で、潜伏感染状態に入ります。潜伏状態から再活性化したHSVは再び知覚神経を下行して外陰に至り、ここで増殖して病変を形成します(症候性感染)。しかし、多くは免疫によって増殖が抑制され病変を形成することはないらしいです(無症候性感染)。
初感染が無症候に終わった場合でも何らかの免疫能の低下に伴い再活性化されたHSVの増殖をゆるすことになり、ここで発症します。
この時はすでにHSVには感染しているので、lgG抗体は発症時には陽性です。
性器にはHSV-1とHSV-2が感染します。
初発ではHSV-1が54.3%、HSV-2が45.7%でHSV-1のほうが多い。一方、再発ではHSV-1が13.7%であるのに対しHSV-2が86.3%と、圧倒的にHSV-2のほうが多い。
性器ではHSV-1に比べてHSV-2のほうが潜伏感染しやすく、また再活性化されやすい。このことは世界的にコンセンサスが得られています。
検査法
病原診断
HSVまはたHSV抗原やDNAを検出して診断するものです。分離培養法が、感度と特異度がともに優れていますが、時間と費用がかかります。蛍光抗体法により感染細胞を検出する方法は時間もかからず簡単で、保険適応もあるよい方法ですが、性器ヘルペスのような小さい潰瘍性病変では感染細胞が採取しにくく、したがって感度が大変悪いです。
人口の約半数は不顕性感染によりHSV抗体を有しているので、HSVに対する抗体が陽性であるからといって当該の外陰病変をヘルペス性病変と決めてはならない点です。
性器ヘルペスの治療
1.初発
一般に初発(とくに初感染初発)は症状が強く病変が広いうえ、抗体が陰性であるため治癒までの時間もかかります。投与期間は5日間とされています。
HSVは外陰の病変が軽快しても仙髄神経節ではなお増殖しています。
仙髄神経節の潜伏感染しているHSVの量が、その後再発のリスクに関係していると考えます。
現在の薬剤は潜伏感染状態のHSVを排除することはできないので、抗ヘルペスウイルス薬によって治療してもその後の再発は免れません。髄膜炎を合併したり、外陰の病変が広く、排尿痛が強く日常生活が困難な場合、末梢神経麻痺による尿閉などを合併する場合は入院し、ACVの点滴治療します。
2.再発
再発例は一般に症状が軽いです。
再発の治療は、発症してから1日以内できれば6時間以内に投薬すると有意な治療効果が得られると言われています。
3.再発抑制療法
再発を抑制するべく持続的に抗ウイルス薬を服用する抑制療法(suppressiv treatment)が開発され、良好な効果を得ています。本邦では2006年9月より、バラシクロビル500mg 1日1回投与を継続する再発抑制療法が保険で可能になりました。抑制療法中でも再発することはありますが、その症状は軽いこともわかっています。さらに、抑制療法を行った時にはHSVの排泄も抑えられる結果、パートナーへの感染率も約75%抑えられることも証明されています。すなわち、本療法により患者本人にとっては再発を減らすことによりQOLが改善されるだけでなく、他人への感染させるのではないかという心配もある程度解消できます。副作用が心配になりますが、現在のところ問題となる副作用は知られていません。
① 対象はおおむね年6回以上の再発例。
② 実施する場合
年後には一度中止して再発するか否かを見極め、もし2回以上再発した場合は継続を検討します。
③ 女性では妊娠が判明した時点でとりあえず中止します。
これは、妊娠初期に本療法を続けていても安全であるというデータがまだないためであり、催奇形性が指摘されているわけではありません。現在ま本療法中に妊娠した妊婦から異常児が出生したという報告はありません。
性器ヘルペスの症例
症例① 女性性器のヘルぺス①HSV-1による初感染初発
7日前に性的接触があり、オーラルセックスもありました。2日前より外陰の疼痛と排尿痛があり受診。
当初、外陰に水疱が多発し、潰瘍性病変はほとんどありませんでした。
水疱はまもなく浅い潰瘍となり、初診時の血清抗体は陰性で、HSV-1の初感染による性器ヘルペスと確定。
感染源はパートナーの口腔の単純ヘルペスウイルスと考えられた。
女性の性器ヘルペスは大部分が浅い潰瘍性病変ですが、この例のように潰瘍になる前には短期間水疱を形成することもあります。性器ヘルペスにはしばしば真菌症が合併します。
症例② 女性性器のヘルぺス③HSV-1による初感染初発
11月中旬に性行為。6日後に強い排尿痛があり、両側小陰唇に多発性の浅い潰瘍が出現。
両側の鼠径リンパ節は膨張し圧痛を認め、HSV-2が外陰と子宮頸管から分離されました。
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